「低温調理 レシピ」で検索するといろいろなレシピが出てきますよね。〇〇度で何分と。この温度と時間は食の安全面から見て大丈夫なのか疑問を持ったので調べてみました。食中毒の原因菌や寄生虫の詳しい話は別の機会として温度と時間の話です。
殺菌に必要な温度と時間
家庭での低温調理のガイドラインなんてものは見つけられなかったので事業者向けの食品別の規格基準に準拠使用と思います。家庭との調理環境の衛生管理の環境差はあるでしょうがある程度食の安全を担保するものでしょう。
以下厚生労働省の食品別の規格基準について食肉製品の製造基準で 低温調理に関係があるであろう部分の抜粋です。
3.特定加熱食肉製品
特定加熱食肉製品は、次の基準に適合する方法で製造しなければならない。
a 製造に使用する原料食肉は、と殺後 24 時間以内に4°以下に冷却し、かつ、冷却後4°以下で保存した肉塊で pH が 6.0 以下でなければならない。
b 製造に使用する冷凍原料食肉の解凍は、食肉の温度が 10°を超えることのないようにして行わなければならない。
c 製造に使用する原料食肉の整形は、食肉の温度が 10°を超えることのないようにして行わなければならない。
d 食肉の塩漬けを行う場合には、肉塊のままで、乾塩法又は塩水法により行わなければならない。
e 塩漬けした食肉の塩抜きを行う場合には、5°以下の食品製造用水を用いて、換水しながら行わなければならない。
f 製造に調味料等を使用する場合には、食肉の表面にのみ塗布しなければならない。
g 製品は、肉塊のままで、その中心部を次の表の第1欄に掲げる温度の区分に応じ、同表の第2欄に掲げる時間加熱し、又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。この場合において、製品の中心部の温度が 35°以上52°未満の状態の時間を 170 分以内としなければならない。
第1欄 第2欄 55℃ 97分 56℃ 64分 57℃ 43分 58℃ 28分 59℃ 19分 60℃ 12分 61℃ 9分 62℃ 6分 63℃ 瞬時 4.加熱食肉製品
加熱食肉製品は、次の規格に適合する方法で製造しなければならない。
a 製品は、その中心部の温度を 63°で 30 分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法(魚肉を含む製品であって気密性のある容器包装に充てんした後殺菌するものにあっては、その中心部の温度を 80°で 20 分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法)により殺菌しなければならない。
b 加熱殺菌後の冷却は、衛生的な場所において十分行わなければならない。この場合において、水を用いるときは、飲用適の流水で行わなければならない。
c 加熱殺菌した後容器包装に入れた製品にあっては、冷却後の取扱いは、衛生的に行わなければならない。食品別の規格基準について 食肉製品より引用抜粋
塊の肉は中心温度63℃瞬時とある表の温度と時間と同等以上で殺菌すること、そうではないなら中心温度63℃30分と同等以上で殺菌することと。
以下「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」の法改正された豚肉の加熱基準です。
第2 改正の内容 法第 11 条第1項の規定に基づき、食品、添加物等の規格基準(以下「規格基準」という。)第1食品の部B食品一般の製造、加工及び調理基準の項の9に、新たに豚の食肉の基準を追加し、以下のとおり改正したこと。牛の肝臓又は豚の食肉は,飲食に供する際に加熱を要するものとして販売の用に供されなければならず,牛の肝臓又は豚の食肉を直接一般消費者に販売する場合は,その販売者は,飲食に供する際に牛の肝臓又は豚の食肉の中心部まで十分な加熱を要する等の必要な情報を一般消費者に提供しなければならない。ただし,第1食品の部D 各条の項○ 食肉製品に 規定する製品(以下9において「食肉製品」という。)を販売する場合については,この限りでない。 販売者は,直接一般消費者に販売することを目的に,牛の肝臓又は豚の食肉を使用して,食品を製造,加工又は調理する場合は,その食品の製造, 加工又は調理の工程中において,牛の肝臓又は豚の食肉の中心部の温度を 63℃で30分間以上加熱するか,又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない。ただし,一般消費者が飲食に供する際 に加熱することを前提として当該食品を販売する場合(以下9において「加熱を前提として販売する場合」という。)又は食肉製品を販売する場合については,この限りでない。加熱を前提として販売する場合は,その販売者は,一般消費者が飲食に供する際に当該食品の中心部まで十分な加熱を要する等の必要な情報を一般消費者に提供しなければならない。
食安発0602第2号「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」より引用抜粋
しかし、平成23年の腸管出血性大腸菌による食中毒事件をうけて、豚の食肉の中心部の温度を63℃で30分以上加熱するか、これと同等以上の殺菌効果がある方法で加熱殺菌することと改正されています。また、千代田区の一般の飲食店等が取り組みやすく、その衛生管理を積極的に評価する仕組みとして「食の安全自主点検店公表制度」なかで「鶏肉、ジビエ、ひき肉料理、テンダライズ又はタンブリングされた食肉、結着肉、牛内臓肉、客が自ら焼く食肉」は中心部温度の測定し、75℃1分と同等以上の加熱ができていること。(75℃1分と63℃30分は同等)
まとめると、衛生管理ができた上、新鮮な肉で表面に塩をしたくらいのローストビーフ以外の肉は63℃30分と同等以上の加熱殺菌の基準で調理すること。
※デンダライズとは金属の刃を用いて、肉の原型を保ったまま、筋及び繊維を短く切断する処理。タンブリングとは肉の内部まで調味液を浸み込ませる処理(機械的に注入する処理も含む)。
では肉の中心温度が設定温度になるのに何分かかるのか。低温調理をしている人なら気になりますよね。
中心温度が設定温度に近づく加熱時間
まずご家庭とこの実験との真空パックや設備・環境が違うということと熱拡散率は、肉種、筋肉の種類、温度、水分など、多くのものに依存するというを理解したうえで参考・目安程度にしてください。脂分が増えるとこの時間より長くなります。
表1 解凍した肉が水温より0.5℃低くなるまでのおおよその加熱時間
厚さ mm | 板状 | 円柱状 | 球状 |
5 | 5分 | 5分 | 4分 |
10 | 19分 | 11分 | 8分 |
15 | 35分 | 18分 | 13分 |
20 | 50分 | 30分 | 20分 |
25 | 1時間15分 | 40分 | 25分 |
30 | 1時間30分 | 50分 | 35分 |
35 | 2時間 | 1時間 | 46分 |
40 | 2時間30分 | 1時間15分 | 55分 |
45 | 3時間 | 1時間30分 | 1時間15分 |
50 | 3時間30分 | 2時間 | 1時間30分 |
Table 1. Approximate heating times for thawed meat to 0.5 °C/1 °F less than the water bath's temperature. You can decrease the time by about 13% if you only want to heat the meat to within 1 °C/2 °F of the water bath's temperature. These calculations assume that the water bath's temperature is between 45 °C/110 °F and 80 °C/175 °F; the thermal diffusivity is about 1.4×10−7 m2/s; and the surface heat transfer coefficient is 95 W/m2-K. For thicker cuts and warmer water baths, heating time may (counter-intuitively) be longerthan pasteurization time. 出展:Douglas E. Bakdwin (2012)“Sous Vide Cooking: A review”International Journal of Gastronomy and Food Science 1 pages15-30 引用抜粋
表の読み方
肉の形状厚さ別に肉の中心温度が(設定温度45℃~80℃)設定の水温-0.5℃になるのにどれだけ時間がかかるか、20mmの厚さ板状の肉ならおおよそ50分で設定水温-0.5℃になるという風に。
厚さ50mmを超えるデータも原文にはありましたので気になる方は下のリンクからどうぞ。
あくまで調理時間がどのくらいかかるかを計る目安なので、温度計を使って中心温度を正確に計ることを推奨します。
まとめ
殺菌できる温度と時間と肉の設定水温-0.5℃になるおおよその加熱時間が分かったということは安全な調理時間と温度が大体見積れる。
あの鶏肉60度60分は食の安全面から見て安心できないレシピで、自分が食べておなかを壊さなかったから大丈夫、作る人の自己責任でという感じをうけました。肉の厚さの書いてないレシピは疑ってかかったほうがいい。
終わりに
肉の温度と時間も大切ですが、食中毒にならないためにも調理環境等の衛生管理も重要です。食中毒予防の3原則 食中毒菌を「付けない、増やさない、やっつける」だそうです。
また、肉の中心温度を温度計で測ることを強くお勧めします。
食中毒のリスクをあげないために低温調理の技術的注意点ややってはいけないことをまとめています。詳しくは低温調理の注意点〉〉
レシピサイトで見た時間と温度をそのまま何も考えず鵜呑みにすることなく、肉の厚さや他の条件で変わってくるので食の安全を考え低温調理してください。
出展:Douglas E. Bakdwin (2012)“Sous Vide Cooking: A review”International Journal of Gastronomy and Food Science 1 pages15-30
厚生労働省HP 食品別の規格基準について
厚生労働省 食安発0602第2号「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」PDF
厚生労働省HP お肉はよく焼いて食べよう
千代田区HP 千代田区食の安全自主点検店公表制度