概要
有鉤条虫(Taenia solium) 無鉤条虫(Taenia saginata) 無鉤条虫、有鉤条虫ともに成虫がヒトの腸管に寄生する。 有鉤条虫の成虫は、ヒトのみを固有宿主とし、中間宿主は豚である。生焼けの豚肉の 摂取により感染し、有鉤条虫症を起こす。虫卵摂取の場合は、ヒトも中間宿主となり、有鉤囊虫症になる。 無鉤条虫の固有宿主はヒトのみで、中間宿主は牛である。ヒトは生焼けの牛肉の摂取により感染し、無鉤条虫症を起こす。
アジア条虫 (Taenia asiatica) アジア地域に分布しているサナダムシの一種であり、無鉤条虫に形態はよく似ているが、豚を中間宿主とする点では有鉤条虫に似ている。アジア条虫症を起こす。虫卵を摂取しても嚢虫症を引き起こすことはない。
症状
潜伏期間 2~3ヶ月
有鉤条虫:有鉤条虫症では、病理学的所見は乏しく、腹部膨満感、悪心、下痢、便秘な ど消化器症状を呈する。 有鉤囊虫症では、囊虫が寄生する臓器により異なる。皮下筋肉内への寄生が最も多く、その他、眼、心臓、肝臓、腎臓、腹腔、胸 膜、脳などから報告されている。皮下・筋肉寄生では、大豆大ないし胡桃大の無痛性の腫瘤を形成する。軽い炎症性反応を生ずる が3~6年で虫体が死滅した後、結合織の増殖・石灰化が起こる。 脳においては寄生部位によりさまざまな症状を呈し、頭蓋内腫瘤を呈し、局所的神経障害、てんかん発作、頭蓋内圧充進症状、小児においては頭蓋内圧上昇による視力障害、脳膜炎、水頭症、脳室上衣炎などを起こす。心臓では心囊、心内膜、心外膜などに 寄生し心拍促進、狭心症様症状などを呈する。
無鉤条虫:虫体の機械的刺激や排泄物の刺激により、腸管の炎症性変化、血清IgE の上昇などが見られる。臨床症状は、無症状に経過して片節を排出して気づくものから、腹痛、悪心、倦怠感、頭痛、めまい、肛門掻痒感などの症状を訴えるものもある。好酸球増加、小腸蠕動運動の亢進が見られることもある。 無鉤条虫はヒトが終宿主の寄生虫なので、成虫が感染してもほとんど症状はない。
アジア条虫:持続的に片節が排出されることによる精神的な不快感や軽微な下痢。
原因食品
有鉤条虫 生または加熱不十分の、虫卵や嚢虫(=幼虫)寄生の肉 豚、イノシシ
無鉤条虫 生または加熱不十分の、嚢虫寄生の食肉 牛、羊、ヤギ
アジア条虫 生または加熱不十分の、嚢虫寄生の豚レバー、子牛レバー
予防・対策
加熱処理:中心温度を少なくとも60℃で加熱
凍結処理:-10℃で4日
汚染実態
無鉤条虫、有鉤条虫とも世界的に蔓延している。有鉤囊虫症では、年間 5 万人の死亡者 が出ていると WHO は推計しており、脳囊虫症を撲滅可能な感染症として位置付けている。 近年、我が国では有鉤条虫症の報告は中国からの帰国子女などの海外感染例を除いてはほとんどなく、症例報告の多くが有鉤囊虫症である。無鉤条虫については、最近は国内での感染例はほとんどなく、輸入感染例の散発をみる。 食品については、有鉤条虫は、日本国内にはほとんど見られないが、輸入豚肉、輸入症例には注意を要する。日本では無鉤条虫はしばしば見られる。
豚の肝臓などを食べて、アジア条虫に感染したという事例が、平成22年6月から平成23年2月にかけて15件報告されている。
死滅温度と時間
無鉤条虫・有鉤条虫 -10°C 6~10日間 -24°Cでちょうど24時間 (Anna L Okello et al. 2017)
食肉および肉製品を少なくとも中心温度56℃で1秒加熱すると、無鉤条虫、有鉤条虫ともの嚢胞が破壊される。-5℃で360時間、-10℃で216時間、-15℃で144時間の冷凍でも同様。(European Commission 2000)
無鉤条虫の死滅点 56℃で5分(Allen,1947)と55℃ 3時間という研究がある。
imilar results were reported by Williams and Colli (1970) that no in vitro activation of T.hydatigena oncospheres was observed after heat treatment at 55°C for 5 minute, 60°C for 2 minute and 65°C for 1 minute. The results presented here are also similar to the predicted thermal death point (56°C for 5 min) of T. saginata cysticerci (Allen,1947). However, Pike (1988) and Hughes et al. (1985) cited by Bruce et al. (1990) reported a prolonged heat requirement (55°C for 3 hours) to reduced infectivity 51 of T. saginata eggs to 1% in sludge. This difference may be due to lack of penetration of heat through the sludge, protecting the eggs for prolonged period.
(Birpal Singh Buttar ,2010)
アジア条虫 少なくとも56℃ 正確な加熱温度と時間はわからなかったが、寄生部位が豚レバーということでE型肝炎ウイルスの不活性化を考えるなかで、十分にアジア条虫不活化ができるのでは。
おわりに
食中毒の原因のひとつである有鉤条虫 無鉤条虫 アジア条虫について、正しく恐れるための参考になればと思います。正しく恐れ、正しく予防・対策をすることで食中毒にならないように。また高齢者、妊婦、小児等の一般的に抵抗力の弱い方については、より一層の注意が必要です。
参考:国立感染症研究所HP
内閣府 平成21年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」 社団法人 畜産技術協会作成 平成22年3月
厚生労働省HP
「食品衛生の窓」東京都福祉保健局 HP
公益社団法人 日本食品衛生協会 HP
食品安全委員会 食肉の寄生虫汚染の実態調査と疫学情報に基づくリスク評価手法の開発
食品安全委員会 「微生物・ウイルス・寄生虫評価書 豚の食肉の生食に係る 食品健康影響評価」 2015年2月
MPI - Ministry for Primary Industries New Zealand HP
Department for Environment, Food & Rural Affairs - GOV.UK HP
The Center for Food Security and Public Health HP
H.R. Gamble ‘Parasites associated with pork and pork products’ Rev. sci. tech. Off. int. Epiz., 1997,16 (2), 496-506
Allen, R.W. (1947) ’The thermal death point of cysticerci of Taenia saginata’ The Journal of parasitology 33, 331-338.
Birpal Singh Buttar (2010) Effect of thermal and ensilation treatments on viability of Taenia hydatigena eggs
Anna L Okello and Lian Francesca Thomas ’Human taeniasis: current insights into prevention and management strategies in endemic countries’ Risk Manag Healthc Policy. 2017; 10: 107–116.
Biosecurity Science and Risk Assessment Directorate Ministry for Primary Industries 'Biosecurity import risk analysis: Meat and meat products from ruminants and pigs’ DRAFT for Public Consultation February 2014
European Commission (2000). Opinion of the scientific committee on veterinary measures relating to public health on the control of taeniosis/cysticercosis in man and animals.