低温調理

ボツリヌス菌 食中毒予防のために

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ボツリヌス菌の食中毒は年に0~数件、恐ろしい毒素を生み出す菌だが発生件数は少ない。

概要

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum) ボツリヌス毒素(神経毒)を産生する。毒素は腸管から吸収され、コリン作動性末梢神経に作用し、神経伝達物質であるアセチルコリンの遊離を阻害することにより筋肉の麻痺を引き起こす。 毒素自体は易熱性で、80℃20分又は100℃12分の加熱で不活化される。 (国立感染症研究所, 2008a, 2008b; 小久保, 2005

出展:「食品衛生の窓」東京都福祉保健局ホームページより

特徴

通常芽胞の状態で土壌、河川や海底の泥等の自然環境中に広く分布している。

生化学的性状によりⅠ~Ⅳ群に分類されている 神経毒素は抗原性の違いによりAGまでの7型に分類されている。(日本ではE型が多い)

発育条件

低酸素条件化で増殖、毒素を産生。耐熱性の芽胞を形成。

原因名 倍加時間 発症菌数 発育条件 至適条件
温度域 pH 水分活性 温度域 pH 水分活性
ボツリヌス菌 Ⅰ群 35分 10~48℃ 4.0~9.6 0.94以上 37~40℃ 6~7 0.98
Ⅱ群 3.3~45℃ 5.0~9.6 0.97以上 30℃ 6~7 0.99

倍加時間:世代時間、平均世代時間とも言う。微生物が1回分裂して倍の量になるのに要する時間。(ここでは栄養の十分にある発育に適した条件での数値)

pH:7なら中性、それより大きければアルカリ性、小さければ酸性

水分活性:食品の水分は%で表さないで、食品中で微生物が生育するために利用できる水分割合を示す水分活性Aw(Water activity)として表示される

症状

毒素の致死量は0.11.0μg

幼児の場合ボツリヌス中毒の蜂蜜サンプルには104~105芽胞/ kgを含まれでいた。

潜伏期間 4時間~8日 通常は436時間

食餌性ボツリヌス症

初期症状で視覚異常を訴えるとともに、口内の渇き、嗄声、腹部の膨満感、吐き気、嘔吐、歩行異常、嚥下困難、便秘、全身の筋弛緩等の症状を呈する。 重症の場合は呼吸筋の麻痺による呼吸不全で致命的となる。

乳児ボツリヌス症

便秘傾向に始まり、全身の筋力低下をきたす。鳴き声や乳を吸う力が弱まり、頚部筋肉の弛緩によって頭部を支えられなくなる。顔面は無表情になり、散瞳、眼瞼下垂、対光反射の緩慢等、食餌性ボツリヌス症と同様な症状が現れる。 (国立感染症研究所, 2008b

致死率は 抗毒素療法の導入後、約30%から約4%に低下。

原因食品

  • 自家製の缶詰、保存食品、発酵食品等 いずしや、瓶詰、缶詰など、長期間保存されること多い食品が原因になりやすい。
  • レトルト食品と似た包装がされているために、誤って冷蔵保存されなかった食品。
  • 海外では、ハム・ソーセージなども。
  • 乳児ボツリヌス症の主な原因として、ハチミツ。自家用の井戸水や、自家製の野菜スープ(推定)が原因として報告されている。

不適切に加工調理された食物の摂取による食餌性ボツリヌス症は稀。

予防・対策

ボツリヌス菌の芽胞は土壌に広く分布しているため、 食品原材料の汚染防止は困難です。食品中での菌の増殖を抑えることが重要。

  • 材料はしっかり洗う。
  • 通常の 家庭調理では芽胞を殺すことは出来ないため、調理品は速やかに食べるか、63℃程度の高温で保つ又は78℃以下に急速に冷やし、数日のうちに食べきる。
  • 80℃20分又は100℃で数分の加熱調理により、産生毒素を食べる直前の不活化する。
  • 1歳未満の乳児に蜂蜜を与えない。
  • 容器が膨らんでいる缶詰、びん詰め、真空パック食品等は食べない。
  • 外見が真空パックに似ていても、表示を確認して適切な温度で保存する。

死滅温度と時間

D値は菌株、脂肪量、pH、水分活性その他の要素で異なります。D値とは菌数を10分の1にするのにかかる時間。

栄養細胞は60℃数分で死滅する。

七面鳥懸濁液におけるボツリヌス菌B型及びE型株のD値 (VIJAY K. JUNEJA et al. , 1994)

B

70℃ ND  75℃ 32.53 ± 1.23分

80℃ 15.21 ± 1.80分  85℃ 4.85 ± 0.93分   90℃ 0.80 ± 0.12分

E

70℃ 51.89 ± 1.93分  75℃ 18.06 ± 2.80分

80℃ 13.37 ± 2.35 分 85℃ 1.18 ± 0.12分   90℃ ND

ボツリヌス菌のD値 (MIP ,2010)

タンパク分解菌(I群)

100℃ 25分 121℃ 0.10.2分

タンパク非分解菌(II群)

100℃ 0.1分未満 121℃ 0.001分未満

レトルト食品や缶詰の加熱殺菌の基準にも使われる12D(滅菌)は120℃4分。

おわりに

食中毒の原因のひとつである黄色ブドウ球菌について、正しく恐れるための参考になればと思います。正しく恐れ、正しく予防・対策をすることで食中毒にならないように。また高齢者、妊婦、小児等の一般的に抵抗力の弱い方については、より一層の注意が必要です、特に1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように。

 

参考:国立感染症研究所HP

農林水産省 食品安全に関するリスクプロファイルシート

内閣府 平成21年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」 社団法人 畜産技術協会作成 平成223

厚生労働省HP

「食品衛生の窓」東京都福祉保健局 HP

公益社団法人 日本食品衛生協会 HP

国連食糧農業機関(FAO)HP

MPI - Ministry for Primary Industries New Zealand HP

FDA Draft Guidance for Industry: Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food

anses  Data sheet on foodborne biological hazards

Michael P. Doyle and Larry R.Beuchat (1995) ’Food Microbiology Third Edition’

THERON E. ODLAUG AND IRVING J. PFLUG U ’Thermal Destruction of Clostridium botulinum Spores Suspended in Tomato Juice in Aluminum Thermal Death Time Tubes' APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, July 1977, p. 23-29

DAPHNE PHILLIPS DAIFAS, JAMES P. SMITH, BURKE BLANCHFIELD, AND JOHN W. AUSTIN ‘Growth and Toxin Production by Clostridium botulinum in English-style Crumpets Packaged Under Modified Atmospheres’ Journal of Food Protection, Vol. 62, No. 4, 1999, Pages 349–355

M. PELEG AND M. B. COLE ‘Estimating the Survival of Clostridium botulinum Spores during Heat Treatments’ Journal of Food Protection, Vol. 63, No. 2, 2000, Pages 190–195

VIJAY K. JUNEJA, BRIAN. S. EBLEN, BENNE S. MARME AARON C. WILLIAMS, SAMUEL A. PALUMBO, and ARTHUR J. MILLER ‘Thermal Resistance of Nonproteolytic Type B and Type E Clostridium botulinum Spores in Phosphate Buffer and Turkey Slurry’ Journal of Food Protection, Vol. 58, No.7, Pages 758-763

M. W. EKLUND, M. E. PETERSON, R. PARANJPYE, and G. A PELROY ‘Feasibility of a Heat-Pasteurization Process for the Inactivation of Nonproteolytic Clostridium botulinum types B and E in Vacuum-Packaged, Hot-Process (Smoked) Fish ‘ Journal of Food Protection, Vol. 51, No. 9, Pages 720-726 (September 1988)

 









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