低温調理

E型肝炎ウイルス 食中毒予防のために

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概要

E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus) E型肝炎を引き起こすウイルス。

HEVのユニークな特徴は、主にウイルス遺伝子型に起因する感染がどこで得られたかに応じて異なる臨床的および疫学的プロファイルを示すことである。ヒトに病気を引き起こすHEV4つの遺伝子型があり、それぞれが先進国と先進国とで異なる疫学的および臨床的特徴を示す。

先進国にみられる遺伝子型G3と日本、中国、台湾に見られる遺伝子型G4について。

感染リスクの高いグループ 遺伝子型G340歳以上 遺伝子型G4は若年成人 (CDC)

若いからといってリスクが高くないというわけではない。

主に宿主動物の肝臓で増殖し糞便中に排出され、媒介食品中では増殖しない。

出展:国立感染症研究所 ホームページより

症状

どのくらいのウイルス量で発症するかは不明

潜伏期間 1550日 平均6週間

倦怠感、黄疸、悪心、食欲不振、腹痛、褐色尿等

感染していても、症状が現れない場合が多く、日本人の抗体保有率は5.2%と報告されている。

妊婦で劇症肝炎の割合が高く、劇症化した場合には死亡率が20%にも達することがある。

原因食品

E型肝炎ウイルスに汚染されたブタ、イノシシ、シカ等の食肉及び肝臓を生食又は加熱不十分な状態で摂食。

予防・対策

よく加熱して食べる。85℃ 1分以上 ウイルスは冷凍しても死にません。

これらの食材を手などの傷口からウイルスが入ってこないに触れないようにする。

各国ガイドライン

EU 70℃ 10分または95℃ 1分 HEV を 3log以上減少させるためには、少なくとも、通常の殺菌である 63℃ 30分間又は 70℃ 2分間といった加熱が必要。

フランス 71℃ 20分 また、HEV 陰性豚の肝臓を事前選別(preselected)できないのであれば、リスク低減の唯一の対策は、豚肝臓を用いた加工製品の製造時に最低でも 71℃ 5 分間の熱処理を行った肝臓を使用すること。

イギリス HEV の生存に係る情報は極めて限られているとし、種々の加熱条件に係る文献を紹介。加熱温度と時間の明示なし。

汚染実態

  • 動物の抗体保有率は、ブタ( 97 , 30/31 ) 、ウシ( 6.5 , 26/400)、イノシシ(46, 77/167:地域間で大きな差がある)、シカ(0, 0/120)、ウマ(1, 1/100)であった。(宮村, 2004
  • 20002002年に25農場におけるブタの出荷前(6か月齢)の抗体保有率は90(226/250)であったが、同検体の血清中からはウイルス遺伝子は検出されなかった。 (Takahashi et al., 2003
  • 20123月-20131月に熊本県で捕獲されたイノシシ31頭(筋肉30検体、肝臓23検体及び血液22検体)、シカ2頭(筋肉2検体、 肝臓2検体)及びと畜場で処理されたブタ305頭(肝臓80検体、血液225検体)について、ウイルス遺伝子の検出を行ったところ、イノシシ及びシカからは検出されなかったが、ブタでは3頭(1%、肝臓2検体、血液1検体)から遺伝子が検出された。 (野田, 2013
  • 市販豚肉のE型肝炎ウイルス汚染状況を把握するために、市販の豚ブロック肉(100点)と豚挽肉(50点)を対象に、E型肝炎ウイルスの調査を行いました。
    その結果、豚ブロック肉及び豚挽肉からE型肝炎ウイルス遺伝子は検出されませんでした。(農林水産省,2017)
  • 山口県での調査、輸入豚肉84サンプルでE型肝炎ウイルス遺伝子は検出されていない、また群馬県での調査、輸入豚肉140サンプルでE型肝炎ウイルス遺伝子は検出されていない。
  • 市販豚レバーで1.9%~10%でE型肝炎ウイルスが検出されたとの調査結果がある。
  • ヨーロッパにおける研究であるが、消費者は、供給源や原産国、さらに加工時におけるブタの糞便汚染とは無関係に、最高 6.0%の割合で HEVゲノムを含む豚肉製品を購入する可能性があるとしている。(I. Di Bartolo et al.,2010)

死滅温度と時間

HEVHEV播種緩衝液および豚肝臓を均質化した糞便懸濁液を使用した研究では、HEVの耐熱性が60℃未満であることが示されています(Emerson 2005; Feagins 2008)。要約すれば:

  • 4556℃の温度に1時間さらしてもHEVは完全に不活性化されない。例えば、存在するウイルスの50%のみが56℃1時間不活性化される。
  • 60℃1時間で、2log10以下の減少(すなわち、9699%の不活性化)が起こる。
  • HEV66℃でほぼ完全に不活性化され、71℃以上の温度で20分間でHEVが不活性化されていると考えられる(少なくとも3 log10減少が達成される)。

2012年に報告された研究では、62℃5分、20分、120分のHEV不活化プロファイルをより詳細に調べました。豚の肝臓では5,10,20分間は68°C5,10,20分間は71°Cであった。信頼できる細胞培養試験法の欠如のために、肝臓における熱不活性化を2つの方法で調べた:

1)調理した肝臓を均質化し、溶液をブタに静脈注射した。 HEVの感染性は、宿主の抗原・抗体検査および排泄から決定した。調理中に肝臓のHEVを完全に失活させるためには、内部温度71℃20分間が必要であることが確認された。

2)調理した肝臓を均質化し、HEV RT-PCRにより試験した。 71℃20分間調理した後、2.9 log10ゲノム当量/ gの減少が観察された。2時間までの62℃の温度は、HEV感染性に測定可能な影響を及ぼさなかった。この研究では、HEVの不活性化が、豚肝臓の高脂肪含量(最大30%)によって影響されることも示されています。

Limited studies using faecal suspension of HEV, HEV-seeded buffers and pork liver homogenates have shown that HEV has good thermal resistance below 60℃ (Emerson 2005; Feagins 2008). In summary:
• HEV is not fully inactivated when exposed to temperatures between 45 and 56℃ for 1 hour, for example, only 50% of virus present is inactivated at 56ºC for 1 hour
• a 2 log10 or less reduction occurs at 60℃ for 1 hour (i.e. 96-99% inactivation)
• HEV is almost completely inactivated at 66ºC and temperatures greater than 71℃ for 20 minutes are sufficient to consider HEV inactivated (i.e. at least a 3 log10 reduction is achieved).
A study reported in 2012 looked more closely at the HEV inactivation profiles at 62℃ for 5, 20 and 120 minutes; 68℃ for 5, 10 and 20 minutes and 71℃ for 5, 10 and 20 minutes in pork liver. Due to the lack of a reliable cell culture assay, the heat inactivation in liver was investigated in two ways:
(1) The cooked liver was homogenized and a solution intravenously injected into pigs. Infectivity of the HEV was determined from host seroconversion and excretion. It was confirmed that an internal temperature of 71ºC for 20 minutes was required to completely inactivate HEV in liver during cooking.
(2) The cooked liver was homogenized and tested by HEV RT-PCR. A reduction of 2.9 log10 genome equivalents/g was observed after the cooking at 71ºC for 20 minutes.
A temperature of 62ºC for up to 2 hours had no measurable effect on HEV infectivity. The study also showed that inactivation of HEV may be affected by high (up to 30%) fat content in pork liver.

引用:Review of Microbial Pathogen Inactivation Relevant to Sous Vide Cooking at Temperatures below 55°C

他にも、

HEV が検出された猪の肝臓懸濁液 100 µl を 1.5 ml の容器に分注し、ヒートブロック上で種々の条件で加熱した後に、ウイルス RNA 量を定量した。その結果、60℃ 90 分間の条件では、ウイルスは検出されなかった。56℃ 30 分間、60℃ 60分間の条件では、それぞれウイルス RNA 量が、4.42 log、3.25 log 減少したが、70℃ 1分間、75℃ 1分間、80℃ 1分間及び 85℃ 1分間では、それぞれウイルスRNA 量は、0.48 log、0.72 log、2.47 log 及び 2.58 log の減少であった。90℃ 1分間、95℃ 1分間では、いずれもウイルス RNA 量は 3 log以上減少した(参照 103)。

HEV 陽性の豚の肝臓を用いて製造したパテ様試料を、試料内部温度が 62~72℃となる条件で 5~120分間ウォーターバスにより加熱し、当該試料の上清を豚の静脈内に接種するブタバイオアッセイが実施された。HEV RNA の検出及び血清中の抗HEV 抗体値を測定し、感染の有無が確認された。その結果、HEV の失活には 71℃20分間の加熱が必要であることが示された。その他、62℃ 120分間、68℃20分間、71℃ 分間等の加熱処理では、HEV は豚への感染性を有していたとされている(参照 102)。しかしながら、パテ様試料は脂肪を 48%含む高脂肪試料であり、英国食品基準庁(FSA)では本研究について、脂肪が多いため加熱に対して HEV が抵抗性を示した可能性があると推測した(参照 113)。また、フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)では、この実験結果が、静脈内投与であること等から、安全側に立った厳しい条件での結果であると指摘している(参照 114)。

引用:食品安全委員会 「微生物・ウイルス・寄生虫評価書 豚の食肉の生食に係る 食品健康影響評価」

E型肝炎のための細胞培養系の欠如は、これらのウイルスの不活性化の理解を妨げている。 現在の検出方法は、検出されたウイルス成分が生存可能なウイルスに由来するのか、または致死的に損傷されたのかを判定することはできない。(MPI,2016)つまり、まだわかっていないことが多い。近年、細胞培養系で増殖させることが確立されたとのことで今後の研究による。

以下、食品安全委員会 「微生物・ウイルス・寄生虫評価書 豚の食肉の生食に係る 食品健康影響評価」のヒト、ブタ及びイノシシから分離された HEV 株を用いた加熱抵抗性に係る実験結果にかかる一部および豚の食肉の加熱殺菌条件の検討の一部抜粋。

ブタの糞便から分離された G3 HEV に感染させた PLC/PRF/5 細胞(ヒト肝癌由来株化細胞)の上清を用いて、熱処理による HEV 不活化の条件が調べられた。HEV を含む細胞上清を 60℃で 10 分間又は 65℃で 5 分間以上加熱すると PLC/PRF/5 細胞への感染性が消失した。同様にイノシシから分離した G4 HEV に感染させてPLC/PRF/5 細胞を用いて熱処理による HEV の感染性失活温度を調べた結果、60℃で 15分間又は 65℃で 10分間以上の熱処理が必要であった。(参照 115)。

ヒトから分離された 2 株の G1 HEV(Akluj 株及び Sar55 株)、ヒトから分離された G2 HEV(Mex14 株)をそれぞれ含むウイルス懸濁液を熱処理後HepG2/G3A 細胞(ヒト肝癌由来株化細胞)に感染させることにより、加熱による HEV の感染性の減少を調べた。すべてのウイルスは 60℃ 1 時間の加熱で約 80%以上が不活化された(参照 116)。

ブタの糞便から分離された G3 HEV を含むウイルス懸濁液(106 ゲノム 相当/ml)を 56℃で 60分間又は 95℃で 5分間の条件で加熱処理し、HepaRG 細胞(ヒト肝癌由来株化細胞)又は PICM-19 細胞(豚肝前駆細胞由来株化細胞)への感染性が調べられた。いずれの条件でも HEV の細胞への感染は確認されなかった。56℃60 分間の熱処理で感染が確認されなかったとする当該実験の結果は、他の研究者の知見とは異なる。著者らは、HEV サンプルの起源、インキュベーション時間、HEV の遺伝子型の相違等が影響する可能性を指摘している(参照 117)。

ブタの糞便から分離された G3 又は G4 の計 4種類の HEV を PBS 又は 25%アルブミン溶液に懸濁し(コピー数 6.3~8.4log/ml)、60℃で加熱後 A549 細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌由来細胞株)を用いて感染性が調べられた。PBS 中では、60℃ 30分間加熱すると、HEV の感染価は検出限界以下まで減少し、ウイルスの不活化を示す指標である Log Reduction Factor は株によって 2.4log~3.7log 以上であると考えられた。一方、アルブミン溶液中では、60℃で 5時間の加熱でも感染性が確認され、Log Reduction Factor は 1~2.2logであった。著者らは、ウイルス周辺の条件が加熱抵抗性に影響を与える可能性があると考察している(参照 118)。

ヒトから分離された G3 HEV(G3 JE03-1760F 株)を含む懸濁液(108 コピー/ml)を加熱後、3.0×105 コピー/ml に希釈し、PLC/PRF/5 細胞(ヒト肝癌由来株化43細胞)に接種することによって感染性を調べた。その結果、95℃で10 分間、95℃で1 分間又は 70℃で10分間加熱すると PLC/PRF/5 細胞への感染性が消失したが、56℃ 30分間の加熱後では感染性を有していたとする報告がある(参照 119)。

63℃ 30分の加熱条件で、HEV の不活化が確認される知見もあること、日本において、現時点において、中心温度が 63℃ 30分間又はそれと同等以上の加熱殺菌を行うことが食品衛生法に基づく規格基準により定められている加熱食肉製品による E 型肝炎患者の事例報告は確認されていないことから、豚の食肉の中心温度を 63℃ 30分間又はそれと同等以上の加熱を行うことにより、HEV は一定程度減少すると考えられる。しかしながら、その他の知見も含めて総合的に勘案すると、HEV が豚の食肉内で不活化される温度や時間条件については、実験の条件(不活化されたと判断する検査方法、加熱方法、検体の大きさ等を含む。)、感染ウイルス量、実験に用いた食品の脂質含量等によって大きく変動すると推定される。すなわち、仮に PC を 2 log 減少させるとしても、それを Process criteria(工程規格(ここでは加熱殺菌条件))に変換する段階における不確実性が極めて大きく、現段階で一律の加熱殺菌条件を示すことは難しいと考えられる。

プロでも難しいことを、素人判断はできません。一番保守的な安全側にたったものは71℃で20分の加熱。

詳しくは、食品安全委員会 「微生物・ウイルス・寄生虫評価書 豚の食肉の生食に係る 食品健康影響評価」PDF

食品安全委員会微生物・ウイルス専門調査会 第 55 回議事録 PDF 平成26年10月を一読することをお勧めします。

おわりに

E型肝炎の非流行地域と考えられている日本では、平均5%程度と報告されているが、日本でのさらに詳細な調査によると地域間に抗体保有率の差が見られるものの、抗体保有率は20代までは非常に低いが、加齢と共に上昇し、40代、50代では20%から30%にのぼる県もあった。この傾向は日本だけではなく、欧米を含む他の非流行地域でもE型肝炎発症率の低さに比較して、抗体保有率が高く、多くの不顕性感染が存在していると考えられている。

食中毒の原因のひとつであるE型肝炎ウイルスについて、正しく恐れるための参考になればと思います。正しく恐れ、正しく予防・対策をすることで食中毒にならないように。また高齢者、妊婦、小児等の一般的に抵抗力の弱い方については、より一層の注意が必要です。特に、肝臓に疾患のある人、免疫不全の人及び妊婦は、HEV によるE型肝炎がより劇症化しやすいとの知見があるのでお気をつけください。

参考:国立感染症研究所HP

農林水産省 食品安全に関するリスクプロファイルシート

農林水産省 HP 市販豚肉のウイルス汚染状況調査(平成26年度)

食品安全委員会 ファクトシート

内閣府 平成21年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」 社団法人 畜産技術協会作成 平成223

厚生労働省HP

「食品衛生の窓」東京都福祉保健局 HP

公益社団法人 日本食品衛生協会 HP

食品安全委員会 「微生物・ウイルス・寄生虫評価書 豚の食肉の生食に係る 食品健康影響評価」 2015年2月

WHO HP

MPI - Ministry for Primary Industries New Zealand HP

Department for Environment, Food & Rural Affairs - GOV.UK HP

Review of Microbial Pathogen Inactivation Relevant to Sous Vide Cooking at Temperatures below 55°C’ MPI Technical Paper No: 2017/35 Prepared for MPI by Beverley Horn and Joanne Hewitt (ESR) Helen Withers, Lisa Olsen and Janet Lymburn (MPI) August 2016

Centers for Disease Control and Prevention HP

食品健康影響評価のためのリスクプロファイル. ~ ブタ肉におけるE型肝炎ウイルス ~(改訂版)食品安全委員会 20121

熊本県におけるイノシシ、シカ及びブタの E 型肝炎ウイルス汚染実態調査、厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)「食品中の病原ウイルスのリスク管理に関する研究」総合研究協力(平成 22~24 年度)

高橋雅春, 岡本宏明. 人獣共通感染症としての E 型肝炎(1)ブタにおけるE型肝炎ウイルス. 臨牀消化器内科. 2006; 21: 241-248

宮村達男(2003)食品に由来するE型肝炎ウイルスのリスク評価に関する研究(総括研究報告書)

Y. Yazaki, H. Mizuo, M. Takahashi, T. Nishizawa, N. Sasaki, Y. Gotandaand H. Okamoto. Sporadic acute or fulminant hepatitis E in Hokkaido,Japan, may be food-borne, as suggested by the presence of hepatitis E virus in pig liver as food. J Gen Virol. 2003; 84: 2351-2357

Suzanne U. Emerson Vidya A. Arankalle Robert H. Purcell ‘Thermal Stability of Hepatitis E Virus’ The Journal of Infectious Diseases, Volume 192, Issue 5, 1 September 2005, Pages 930–933, Published: 01 September 2005

Elodie Barnaud, Sophie Rogée, Pascal Garry, Nicolas Rose, and Nicole Pavio ’Thermal Inactivation of Infectious Hepatitis E Virus in Experimentally Contaminated Food ’Applied and Environmental Microbiology p. 5153–5159 August 2012 Volume 78 Number 15

I. Di Bartolo, M. Diez-Valcarce, P. Vasickova, P. Kralik, M. Hernandez, G.Angeloni, F. Ostanello, M. Bouwknegt, D. Rodriguez-Lazaro, I. Pavlik and F. M. Ruggeri. Hepatitis E virus in pork production chain in Czech Republic, Italy, and Spain, 2010. Emerg Infect Dis. 2012; 18: 1282-1289









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