低温調理

病原大腸菌 食中毒予防のために

更新日:

腸管出血性大腸菌とその他病原大腸菌が原因の食中毒は平成29年で合わせて、患者数1214人、発生件数28件となっています。腸管出血性大腸菌で女児1名が亡くなっています。平成28年8月には、千葉県及び東京都の老人ホームの給食で提供された「キュウリのゆかり和え」を原因とする腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生している。患者数84名、そのうち死者数10名。

概要 

  • 腸管病原性大腸菌(EPEC):下痢、腹痛を症状とし、サルモネラ属菌とよく似た急性胃腸炎を起こす。
  • 腸管侵入性大腸菌(EIEC):腸の細胞内へ入り、赤痢のような症状(血便、腹痛、発熱)を起こす。
  • 毒素原性大腸菌(ETEC):エンテロトキシンにより、コレラのような激しい水様性の下痢を起こす。
  • 腸管出血性大腸菌(EHEC):ベロ毒素により、腹痛や血便などの出血性腸炎を起こす。ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)とも呼ばれている。
  • 腸管集合性大腸菌(EAggEC):腸の細胞に付着し、エンテロトキシンを産生することにより、散発的に下痢症を起こす。

ここでは主に「O157」 に代表される腸管出血性大腸菌Escherichia coli についてみていく。

出展:「食品衛生の窓」東京都福祉保健局ホームページより

特徴

牛などの動物の腸内に存在する。

発症者の糞便中に大量の菌が排出されるため、しばしば二次感染が起こる。

乾燥、低温、冷凍に強い。

O157:H7は酸にも強い。

発育条件

原因名 倍加時間 発症菌数 発育条件 至適条件
温度域 pH 水分活性 温度域 pH 水分活性
病原大腸菌 17分 10~100程度 7~46℃ 4.4~9 0.95以上 35~40℃ 6~7 0.99

倍加時間:世代時間、平均世代時間とも言う。微生物が1回分裂して倍の量になるのに要する時間。(ここでは栄養の十分にある発育に適した条件での数値)

pH:7なら中性、それより大きければアルカリ性、小さければ酸性

水分活性:食品の水分は%で表さないで、食品中で微生物が生育するために利用できる水分割合を示す水分活性Aw(Water activity)として表示される

症状

10100個/ヒト程度で発症 (1150/ヒト程度の少量の摂取菌量でも発症する)

潜伏期間 38

無症候性から軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで様々。 ※溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳障害を併発することがあり、HUSは下痢が始まってから約1週間後に赤血球の破壊による溶血性貧血、血小板の減少及び急性腎不全などの症状が現れます。重症の場合は死亡します。

原因食品

食肉類の生食、加熱不十分な食肉が原因となりやすい。牛糞などを原料とするたい肥などで菌に汚染された野菜、果物の生食。また少量の菌数で発症するため冷蔵庫内や調理器具、手などから他の食品にこの細菌が付くことでどんな食品でも原因となりえる。

予防・対策

  • 食肉類は十分な加熱調理。
  • 生野菜などはよく洗う。
  • 食肉類は、他の食品類と接触しないように、保管容器や調理器具を分ける。
  • 調理前や食肉類に触れた後、調理後、食前には、よく手を洗う。
  • 調理器具は、洗浄しその後熱湯等で消毒。

汚染実態

  • 20072008年に全国の肉用牛406農場(2,436頭)を対象に腸管出血性大腸菌(O157及びO26)の保有状況を調査した結果、約3割の農場から検出された。 (Sasaki et al., 2011; 農林水産省, 2015
  • 20119月~12月に1箇所のと畜場に搬入された牛を調査した結果、腸管出血性大腸菌O15721%(20/96)の牛から検出された。消化管内容物別に検出率を見ると、高い順に直腸内容物 (14/9615%)、十二指腸内容物(7/967%)、第一胃内容物 (4/964%)、第四胃内容物(1/961%)であった。腸管出血性 大腸菌O157が検出された牛の70%(14/20)は直腸内容物から腸管出血性大腸菌O157が検出された。(農林水産省, 2012a; 農林水産省, 2015
  • 20156月~20162月、全国の産地のトマト(215点)及びきゅうり(236点)を対象とした腸管出血性大腸菌(O157)の汚染状況を調査した結果、いずれの試料からも検出されなかった。 (農林水産省)

死滅温度と時間

D値は菌株、脂肪量、pH、水分活性その他の要素で異なります。D値とは菌数を10分の1にするのにかかる時間。

挽き肉におけるO157:H7D値(Doyle and Schoeni, 1984

 60℃ 45秒 64.3℃ 9.6

低脂肪(4.8)の牛塊肉においてのO157H7D値 (S.E. SMITH et al., 2001

 55℃ 19.6320.53分 58℃ 1.091.35

 61℃ 0.300.34分 63℃ 0.140.18

高脂肪(19.1)の牛塊肉においてO157H7D値 (S.E. SMITH et al., 2001

 55℃ 21.6923.25分 58℃ 1.922.18

 61℃ 0.310.33分 63℃ 0.170.19

牛肉、豚肉におけるO157H7及び他のSTEC血清型を含む大腸菌のD値 (ESR NZ,2015)※Regression 95th Percentile 

55℃ 33.6分 60℃ 6.1分 63℃ 2.2

percentile 計測値の分布(ばらつき)を小さい数字から大きい数字に並べ変え、パーセント表示することによって、小さい数字から大きな数字に並べ変えた計測値においてどこに位置するのかを測定する単位。例えば、計測値として100個ある場合、95パーセンタイルであれば小さい方から数えて95番目に位置する

一般的に適当とされる5D7Dを達成する加熱時間

7D、つまり初期の菌数から10000000分の1にするのにかかる時間は

55℃では235.2分 牛肉、豚肉におけるO157H7及び他のSTEC血清型を含む大腸菌のD値 (ESR NZ,2015)より計算(一例)

おわりに

食中毒の原因のひとつである病原大腸菌について、正しく恐れるための参考になればと思います。正しく恐れ、正しく予防・対策をすることで食中毒にならないように。また高齢者、妊婦、小児等の一般的に抵抗力の弱い方については、より一層の注意が必要です。

D値を載せてありますが、あくまで病原大腸菌についてだけのものであり、他にも食中毒の原因となる菌やウイルスなどあります。ですのでこれだけでは、この温度と時間での低温調理が安全であるか判断できるものではありません。

 

参考:国立感染症研究所HP

農林水産省 食品安全に関するリスクプロファイルシート

内閣府 平成21年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」 社団法人 畜産技術協会作成 平成223

厚生労働省HP

「食品衛生の窓」東京都福祉保健局 HP

公益社団法人 日本食品衛生協会 HP

MPI - Ministry for Primary Industries New Zealand HP

FDA Draft Guidance for Industry: Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food

Michael P. Doyle and Larry R.Beuchat (1995) ’Food Microbiology Third Edition’

D and z valuesfor the heat inactivation of pathogens in raw meat Final Report MPI Technical Paper No: 2016/05 INSTITUTE OF ENVIRONMENTAL SCIENCE AND RESEARCH LIMITED New Zealand

s.c. Stringer, S.M. George and M.W.Peck  ’Thermal inactivation of Escherichia coli 0157:H7’ 2000 The Society for Applied Microbiology, 88, 798-89S

S.E. SMITH, J.L. MAURER, A. ORTA-RAMIREZ, E.T. RYSER, AND D.M. SMITH ‘Thermal Inactivation of Salmonella spp., Salmonella typhimurium DT104, and Escherichia coli O157:H7 in Ground Beef’JOURNAL OF FOOD SCIENCE—Vol. 66, No. 8, 2001

Russell P. McMinn, Amanda M. King, Andrew L. Milkowski,Robert Hanson,Kathleen A. Glass and Jeffrey J. Sindelar (2017) Processed Meat Thermal Processing Food Safety - Generating D-Values for Salmonella, Listeria monocytogenes, and Escherichia coli.

Doyle, M. P. and Schoeni, J. L. (1984) Survival and growth characteristics of Escherichia coli associated with hemorrhagic colitis. Appl. Environ. Microbiol.. 48, 855-856









-低温調理
-,

Copyright© 減塩、低温調理はじめました。 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.